第25章 耳掃除をしよう(安土勢)
「うーん、やっぱり寝転んでください。
膝の上の方が見やすいので」
光秀「わかった」
「特に何も見えませんね。
んん??んーーー……」
虫や土などの異物は見えなくて一安心だけど……気になることがひとつ。
光秀「どうした?」
屈めていた身体を戻し、目を閉じて寝転んでいる光秀さんを睨んだ。
白銀をどけて、おでこに触れると長い睫毛がわずかに震えた。
「…………光秀さん、まだ熱がありますね?」
手に伝わってくる熱は朝よりも高かった。
(またこの人は無理して!)
膝に頭を乗せていた光秀さんの頭をどかし、押し入れから布団を出した。
光秀さんはだるいのか投げ出された状態で畳に寝転んでままだ。
「なんでそこまでして仕事するんですか。ほら!早く寝てください!」
光秀「事態が動いては、今までの労力が無駄になる。
休む前に報告と具体的な指示を出す必要があってな」
「気持ちもがわからないでもないですけど、とにかく布団を敷きましたので移動してくらさい。
そのままゴロゴロ転がってくれればいいですから」
光秀「だるい。動きたくない」
「……」
(普段弱気なことを言わないのに、よっぽど具合が悪いんだろうな)
当たり前だけど光秀さんを抱えることはできなくて、仕方なく転がしにかかった。
力が抜けている男性の身体を動かすというのは結構な労力だった。
「っとに、手間のかかる人ですね。
信長様に報告したみたいですし、具体的な指示って、あの文のことですか?」
光秀「ああ」
さっきまで涼しい顔で文を書いていた人が、布団に入って固く目を閉じている。
私が訪ねてきたせいで、やせ我慢させてしまっただろうかと申し訳なく思った。
「あの文を秀吉さんに届ければ終わりですか?
他に気にかかることはないですか?」」
放っておくとまた無理しそうなので、光秀さんのサポートにまわることにした。
光秀「九兵衛に文を持たせろ。至急で行けと……」
掛け布団がモソモソと動き、手が出てきて額を押さえた。
(頭が痛いのかな。熱、高そうだし……)
「わかりました。九兵衛さんに文を渡せばいいんですね」
文を持って廊下に出ると、少し離れた所に九兵衛さんが控えていた。
探す手間が省けたと胸をなでおろし、九兵衛さんに駆け寄った。