第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
(第三者目線)
今日も謙信の部屋に金属音が響いた。
謙信と静華が時折斬り合うのが習慣化し、兼続と幸村は、また始まったかと少し離れた廊下でそれを聞いていた。
幸村「よくやるな、あの夫婦。おかしいんじゃないか?」
兼続「謙信様に向かっておかしいとは何事だ。……謙信様?」
幸村の後方から歩いてくる謙信を見て、兼続が静かに驚いている。
幸村「おい、じゃあ、今の音は誰とやりあってるんだっ!?」
慌てて駆けだした二人に謙信は余裕の笑みを浮かべている。
謙信「ああ、それなら佐助だろう。俺が忙しい時は静華が寂しがらないよう、時々斬りかかってやれと佐助に命じておいた」
兼続「………それは奥方様もお喜びでしょう」
幸村「おい、兼続!おかしいだろうっ、つっこめよ!どこに自分の妻に斬りかかれなんていう夫が居るんだよっ」
謙信「日ノ本中、どこを探しても居ない、良い女だろう?俺の最愛の妻だ」
幸村がげんなりとしたところで、謙信の部屋の襖が開いた。
ひょこっと顔を出した静華が左右を確認し、謙信達に気が付くとぱっと顔を輝かせた。
「謙信様っ、曲者を捕まえましたっ」
謙信「っ!?」
幸村「はっ!?」
兼続「!」
三人が部屋に入ると、最近城にあがったばかりの男が畳の上にのびている。
「誰もいないと思ったのか謙信様のお部屋に入ってきたんです。問い詰めたら斬りかかってきたのでやっつけました」
謙信が贈った綺麗な着物を身に纏い、艶やかな髪を下ろした静華の手には、『尚文』だった頃から使っている刀が握られている。
恐ろしく不似合いな出で立ちだ。
幸村と兼続は飲み込めないものを飲み込むような顔で、のびていた男を捕縛した。