第23章 不香の花(謙信様:誕生祝SS2023)
謙信「俺を恐れもせず、ただひたすらに愛を捧げてくれる女はこの世において舞だけだ。
お前に愛され、愛しすぎて息ができなくなる」
二色の目が情熱を迸らせ、鮮やかに光っている。
謙信「舞ならば俺の首をわざわざ手で絞めなくとも、微笑みひとつで俺の息を止めさせるのだ」
繊細な指が顔の輪郭を確かめるように滑ると肌の熱が上がっていく。
謙信「お前の代わりなどどこにも居ないと、俺も、俺の周りの者も認めている。
それを理解していないのは舞だけだ」
「謙信様、そんな…」
そのまま言葉を受け取ってしまっていいのかと少し迷った。
謙信様は自分の言葉を素直に受け取るのを良しとするけど、周囲からは『図々しい。そう言われても断るのが常識だろう』と陰で言われていたことがあった。
謙信様と周りの反応の差に、間に立たされたことも1度や2度じゃない。
(そういえば最近はあまりそういう場に居合わせることもなくなった、かも?)
周囲も認めてくれたということなのだろうか。
迷う私の頭に大きな手が乗せられた。
謙信「春日山に居る者の総意だ。舞が憂うことはひとつもない」
言い聞かせるように言われ、そこでやっと言葉を受け入れられた。
強張っていた体から力が抜けると、『やっとわかってくれたか』と、力強く抱きしめられた。
「人を愛しすぎて、人に愛されすぎて、息ができなくなるなど想像もしていなかった。
舞に出会うまで知らぬことだった」
「私もです、謙信様。こんなに人を愛することができるなんて、謙信様に出会うまで知りませんでした。さっきから胸が苦しくて…、時々息ができなくなるんです。
愛しています、謙信様」
愛溢れる言葉と、見つめられる嬉しさと、愛しさが混ぜこぜになって心臓を震わせる。
心臓がドクドクとうるさい。
「謙信様が居てくださるのなら何もいりません。
長生きして……、これからもずっとお傍で誕生日を祝わせてください。
それが私の願いです」
私を抱く腕に一層力が籠った。
謙信「最初からそう言え。身を引くなどと寂しいことを言うな」
ぎゅう、と力一杯抱きしめられて、肺が押しつぶされた。
謙信様の愛情を感じて、苦しさよりも嬉しさが勝った。