第23章 不香の花(謙信様:誕生祝SS2023)
謙信「舞」
少し厳しさを含んで名を呼ばれた。
「はい」
謙信「長生きしても舞が隣に居なければ何の意味もない。
そこを履き違えていなければ、今のお前の言葉は願い事などではなく最上の贈り物だ」
「そんな大それたこと…」
謙信「できないのか?ならば舞はいずれ俺の元を去るつもりで居るのか」
私達の間の甘やかさは消え、ピリリとした緊張が走った。
「どなたか…強い後ろ盾のある姫様との縁談が持ち上がったら、その時は身を引こう思っております」
謙信「…それで、心優しいお前は俺の幸せを願いながら生きるのであろうな」
「はい」
冷ややかな口調は、泣きたくなるような未来を他人事のように語った。
謙信様を思って身を引くのに、突き放され、責められる響きに胸が締めつけられた。
謙信「舞、世間で俺がどう言われているか知っているか?」
「世間で、ですか?私が聞いたのは毘沙門天の化身とか、戦をするために生まれてきたとか…あとは女の人が嫌いだとか、そんな感じでした」
謙信「そのような男の元に来たい女がどこに居るのであろうな?
たいていの女は俺と目が合っただけで顔色が悪くなり、身じろぎひとつで泣き出す」
「………それは随分と失礼な方達ですね。
身じろぎしただけで、なんで泣く必要があるのでしょう」
謙信「ひとえに俺が恐ろしいそうだ」
「恐ろしい………?」
醸し出すオーラが凄いから?それとも目つきが鋭いから?
でもちゃんと謙信様を見れば、恐ろしい人ではないとわかるはずなのに。
謙信「理解しかねる、という顔だな?女に限らず男もそうなのだぞ?
平気な顔で俺の傍に居る舞が稀有なのだと、何故わからぬ?」
「え……?」
強い視線から目を逸らせない。
貴く美しい人に見つめられて、心臓が掴まれたように苦しくなった。
体内にある心臓を外部から制御されている感覚。
ハッと短く吐息が漏れた。一瞬、本当に息が止まっていたようだ。