第22章 あの夜に触れたもの(謙信様・誕生祝SS)
(謙信目線)
「謙信様!!見て!松の毛がところどころ夏毛になってきましたよ!」
見れば舞の腕に抱かれた松の毛が、一部茶色になっている。
冬が終わり、雪に擬態する必要がなくなった兎達は冬毛と夏毛が混じり、まだら模様になっている。
「わあ、こっちの子は黒兎になるのかな。今だけモルモットみたいな毛色だね?
はあ……兎に囲まれて暮らせるなんて幸せ。年中モフモフできちゃう」
俺の周りに侍る松竹梅を代わる代わる撫でて、舞は顔を緩ませている。
誕生日当日の朝。
腕の中で目を覚ました舞の顔を今でも忘れられない。
「夢かと思ったら、夢じゃない…?」
恐れるように俺を見上げて百面相していた。
枕にしていた俺の腕を見て青くなり、目が合えば赤くなり、震えているのかと思えばにやけていた。
寝乱れた髪や、まだ覚醒しきっていない目。昨夜、箍が外れて触れてしまった唇。
どれも愛しくてたまらなかった。
荒れ果てていた心はどこへ行ったか。
胸は思慕に支配され、はち切れんばかりだ。潤い満ちて、心を彩る。
もう我慢などできなかった。
手を伸ばさずにいられないと衝動的に舞を抱きしめた。
この腕は、伊勢を抱きしめていた未熟な腕ではない。
今度こそ愛する者をこの手で守る。必ず。
謙信「俺は……舞を愛している」
言葉を受け止め、舞が息を止めた。
眼差しに熱を込めて見ていると澄んだ目が潤みだし、淵に盛り上がった涙が流れ落ちた。
「う、そ…?」
謙信「嘘だと思うならもう一度言おう。
舞を愛している」
舞にのしかかり、両頬を包んで囁いた。
昨夜は胸の内をさらけ出したら嫌がられるかと不安を抱いたがこの表情は誰が見ても嫌がっていない。
それに昨夜の寝言は全部聞けなかったが、あれは俺のことを好いていると、そう言っていなかったか。