第22章 あの夜に触れたもの(謙信様・誕生祝SS)
―――――
――
謙信「おい、起きろ」
「ん~~~~、寒い…」
寝ているところを揺さぶられ身を縮めると、身体に何か掛けられた。
布団かと思ったらどうやら私の羽織のようだった。
謙信「何故舞が俺の部屋で寝ている!?」
護衛「け、謙信様が舞様を、お、押し倒しているのをお見かけして、その…」
謙信「俺が押し倒しただと?記憶にないが…。
とにかく褥に移す、早く用意をしろ」
女中1「謙信様、その、えぇ……褥は二組用意すれば良いですか?」
騒がしいのを無視して、『用意してくれるの?早くお布団に入りたい、まだかな…』なんて呑気に期待しながら寝ていた。
頭を撫でられたような気がするけれど、それも眠気に負けて夢なのか現実なのかハッキリしない。
謙信「食事はいらん。この調子では朝まで起きぬだろう。
その火鉢をもっとこっちへ持ってこい。寒がっている」
女中1「は、はい!」
謙信「舞を夜着に着替えさせろ」
女中2「はい、夜着ですね。はいっ」
謙信「…妙に気合が入った返事をするな」
女中1・2「「気のせいでございます」」
数人の足音が出たり入ったり、身体をそっと起こされると楽な格好になった。
そこまでされて起きなかったのは、連日、佐助君、幸村、村正と一緒に雪かき兼雪遊びをしていたせいだ。とても楽しかったけど、身体は疲れていたようだ。
足音が去り、ようやく静かになると身体をそうっと持ち上げられた。
柔らかなお布団を背中に感じて、フウと吐息を漏らす。
謙信「夢ならば良いと思っていたが、現実だったとはな。
日付はもう変わって日を迎えたぞ。祝いに来たのではないのか?」
冷えた布団が2,3枚掛けられ、身震いする。
体温で温まるまでの辛抱とじっとしていると、少しずつ温かくなってきた。
(良い匂い…)
お香に混じって人の香りがした。
(これ、謙信様の香りだ)
寝ているのに口角がいやらしく上がる。好きな人の匂いがする夢なんてそうあるものじゃない。
(あー……なんて良い夢なんだろう)
瞼の向こうで部屋の灯りが消え、ふっと視界が暗くなった。