第22章 あの夜に触れたもの(謙信様・誕生祝SS)
(姫目線)
明日の謙信様の誕生日は朝から晩まで祝い事が続くという話だ。
だったら一日早いけど誕生日のプレゼントをあげようと部屋を訪ねた。
白いちりめん生地を使って雪うさぎを作ってみた。
赤い目と緑の耳。中身は100%棉なので、可愛い見た目に反してズッシリしている。
悪戯心で大きめに作ったから、お昼寝用枕にできるかもしれない。
雪うさぎを枕にしている謙信様を想像して、ぷっと吹き出した。
部屋の前には護衛の人が居て、贈り物を届けに来たと伝えたら取り次いでくれた。
しかし声をかけても返答はなく、襖を少し開けてみたら謙信様が両腕を組んで寝ているのが見えた。
ここ数日立て込んで眠っていなかったようだと、護衛の人が教えてくれた。
「どうしようかな…」
夜に男の人の部屋に尋ねるのは誘っていると思われるだろうし、なら贈り物だけ置いて帰ることにして部屋に入らせてもらった。
起こさないように静かに近寄って雪うさぎを文机に置いた。
好奇心には勝てずに顔を覗き込む。
(あ……寝顔も凛々しいのね…)
座椅子もないのに体はぶれず不動だ。
寝ている姿にさえ隙がないなんて尊敬してしまう。
一瞬見惚れた後、思い直して着ていた厚手の羽織を謙信様の肩にかけた。
羽織を見れば雪うさぎを持ってきたのが私だと気づくだろう。
私の温もりを纏った羽織が謙信様を温めると思うと少々照れくさい。
普段は私の助けなんて欠片も必要ない人だから、役に立てることがあって嬉しかった。
(明日は忙しいだろうから今日はゆっくりしていて欲しいな)
私の羽織に包まれた謙信様を見て、帰ろうと腰を上げた。
謙信「舞……」
起こしてしまったかと身動きせずに固まっていると、謙信様は虚ろな目を向けて私を抱き込んで……寝転んだ。
「え、ちょっ!?」
無防備な状態で謙信様に体重をかけられ、押し倒される形で畳に転がった。
帯が邪魔をしてころんと横向きになり、謙信様と向かい合わせになった。