第22章 あの夜に触れたもの(謙信様・誕生祝SS)
(謙信目線)
暗い記憶、後悔、懺悔に支配された心を、舞は丸ごと包み込んでくれた。
舞がくれる言葉は思いやりに溢れ、俺の話を聞く時は黙って耳を傾けていた。
特別何かしてくれたわけでもないが、そうしてくれたのは舞だけだったように思う。
過去のことは心に留まったままだというのに、痛みはやわらぎ、暗さは薄れていった。
完全になくなることは不可能だが、舞が傍に居るだけで俺の濁った心は息を吹き返していき、やがてこの世の美しさに目を奪われるようになった。
ただ世の美しさを感じたのではない。
舞が生きているこの世が美しいと感じたのだ。
そのことに気付き、舞に強く惹かれた。
その温もりに触れて、温めて欲しいと手を伸ばすのを必死に耐えた。
俺のような男が手を出していい女ではない。
それに、また失ってしまうだろうと怖くてたまらなかった。
舞が俺の名を呼んでいる……
態度はでかいが話しかけてくる時はいつも遠慮がちだ。
その差を愛しいと感じているなど到底言えないが。
ああ、これは夢だ。
俺の腕の中に舞が居る。
想像していた通り、お前は温かいな。
日向で微睡んだことはないが、きっとこういう気分なのだろう。
舞が愛しい。
お前を愛する気持ちは胸を満たしてもまだ足りず、身体を駆け巡った。
そこまでくれば手遅れだと自覚するしかない。
俺の心は完全に舞に奪われた。
舞が腕の中で微笑んでいる。
夢よ、どうか終わらないでくれ
このまま………舞を腕に閉じ込めていたい……