第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
――――
――
雪深い越後に遅い春が訪れたある日。
誰にも見咎められないようコソコソと歩いていた私は、一番見つかりたくない人に背後から声をかけられた。
謙信「静華、その格好はどうした?」
(え?今日は一日広間に居るはずじゃ……)
ぎくりとして後ろを振り向けば、謙信様が不審げな顔つきで立っている。
「…裏庭で鍛錬をした後、梅と触れ合い、小姓部屋の掃除と整理をしてまいりました」
春日山に戻ってみれば、私の刀や着ていた着物類、佐助殿の『すぺしゃるめにゅー』などは、ひとまとめにされて大切に保管されていた。
それをいいことに2年間の引きこもり生活を挽回するように、男に変装し、人目を忍んでは鍛錬に励んでいた。
私の傍仕えには志乃さんがついてくれて、面白がって協力してくれる。
謙信「おとなしくしていろと言っただろう?」
謙信様が唸るように呟いた。
「部屋に閉じこもっているのはあまり好きではないのです。それに私は謙信様の刀でありたい」
謙信「何?」
「一緒に居る時に何かあった時、謙信様に守られるのではなく守りたいのです。
流石に戦場は無理ですが、私は謙信様の隣に居ても何も不審に思われない存在です。その立場を使って、あなたをお守りしたいです」
大名の城に案内された時や、公家との面会など、家臣の人が遠巻きにしかついて来られない場面でも、私なら傍に居られる。
謙信「静華の気持ちはわかったが…それで変装しているつもりなのか?」
唐突に話を変えられて面食らう。
「え?上手く変装しているつもりですけど。人目につかないように行動しているので今のところ誰にも気づかれていませんよ?この間、兄上とすれ違いましたが気づかれませんでした」
嫁入り道具に忍ばせてきたかつらをつけ、格好は下男の姿だ。
歩き方やその他の動作だって男性に見えるよう変えている。
謙信「たとえ変装していようが、お前が麗しいことに変わりはない」
「う、麗しいだなんて………」
夫婦になって知ったけれど、謙信様はまっすぐな言葉で気持ちを伝えてくるので、受け止めるこちらが恥ずかしくなってくる。