第21章 姫は間諜?(隠語・難易度1)
(あれ、そういえば光秀さんって福知山城とか亀山城とか、京都にお城を持っている人だよね?)
なのに、話す言葉といえば標準語だ。
まあ、標準語と言うならば、安土の武将は全員標準語だけど。
領地に帰っている間だけ訛るのかな…。
そう思ったら気になって仕方がなくなった。
「こんにちは、光秀さん。
つかぬことをお聞きしますけど…」
光秀「なんだ、小娘」
光秀さんが立ち止まると、ゆらりと袴の裾が揺れた。
まっすぐ前を向いていた琥珀の目が静かにこちらに向けられた。おそらく声を掛けなければそのまま行ってしまっただろう。
光秀さんは近寄りがたい雰囲気があって、安土の武将の中で一番距離がある人だ。
「光秀さんって、自分のお城に帰った時とか京の言葉を使ったりするんですか?」
光秀「どういうことだ?」
表情を変えず、目だけが鋭く細められた。
(う、怖い)
多くの人に恐ろしいと言われている信長様のことは怖くないけど、光秀さんは得体がしれないせいか怖く感じる。
気軽に話をふってしまって後悔した。
「み、光秀さんに限らず、安土の皆さんは全然訛りがないので、領地に居る時と居ない時で使いわけているのかなと思ったんです。光秀さんはどうなんですか?」
光秀「そんなことを聞かれたのは初めてだ。
相変わらず小娘の頭は平和のようだな」
「む、好奇心旺盛と言ってください」
どうせ500年後から来た、平和ボケした現代っ子ですよ!と内心で悪態をつく。
光秀「呑気な姫の質問に答えてやろう。
領地に戻ったからという理由で使いわけしない。
仕事上、訛りがあると不利になる時があるのでな。普段から言葉には気を付けている。
だが相手を欺くために、わざと訛りを入れる時はある」
琥珀の瞳が妖しく光る。
「う…」
方言は地方色が出て面白いと感じる私とは違う人種だと肌で感じた。
(そういえば光秀さんの武器は舌だって誰かが言ってた。
言葉で人を化かすんだから、うん、聞いた相手が悪かった)