第21章 姫は間諜?(隠語・難易度1)
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師走の29日。
城の廊下を、厚着して出かけようとしている舞の姿があった。
政宗「今日も商人のところに行くのか?」
「うん!年が明けたら、別のところに行くって言っていたから、今のうちに会っておきたくて。
津軽の言葉を聞いていると、すごく懐かしいんだよね」
祖父母は亡くなっているし、500年後に里帰りできない舞にとって、訛りまくった津軽の言葉が、故郷に触れられる唯一のことだ。
嬉しそうにする舞の顎をとらえ、政宗が顔を寄せた。
間近に迫る瑠璃色に舞は息をのんだ。
政宗「そんなに陸奥の言葉が懐かしいなら、俺のところに来ればよかっただろう。
陸奥出身は少ないが、時々居るぞ」
舞は政宗の手首をつかんで、顎から手を外させた。
「さりげなく誘ってくるところが、流石政宗だね。
いいの。安土に居ると地方からもたくさん人が来るから、色々な言葉が聞けて楽しいんだから!」
政宗「各地域の言葉を聞いて楽しい、か…。
ふっ、お前らしいな」
「政宗はそうじゃないの?私はね~、関西圏の言葉って憧れちゃうなぁ」
政宗「お前、さりげなく奥州の民を敵に回したな」
「え!?ち、違うよ。
ほ、ほら京都とかさ、『おきばりやす』とか『かんにんえ』とか、品があって素敵だと思わない?」
政宗「てことは陸奥や奥州の言葉は品がないってことか?」
政宗はにやにやしながら舞を揶揄っている。
「ち、違う!なんてこと言うのよ!東北民に嫌われたらどうしてくれるのよっ!
東北の訛りは『あたたかい感じがして好きー』なんて言われるんだから」
政宗「東北ってなんだ??」
「いいの、東北が何かだなんて気にしなーい。
関西圏でも特に、京ことばはとにかく憧れがあるんだよね。
なんていうか、しっとりしてるっていうか、ほわっとしてるっていうか」
政宗「ふーん、そんなもんかねぇ?」
私が熱く語っているのに、政宗の反応は薄い。
方言にあまり興味がないのかな、と思っていると、正面から光秀が歩いてきた。