第21章 姫は間諜?(隠語・難易度1)
商人の女は美代といい、身体が動くうちに一生に一度は京都に行ってみたいと、商いついでに各地を旅して歩いているという。
一緒に旅をしている旦那は、大阪の方に行っているそうで数日内に戻ってくるらしいことを舞は説明した。
言葉を教えるお礼に、美代から津軽に伝わる刺し子のやり方を教わっていたらしい。
「こぎん刺しって江戸時代頃にできたって言われていたんだけど、戦国時代にはもう津軽に定着していたなんて歴史的発見すぎて、もう感動しちゃって…」
舞は、また訳の分からないことを言って大興奮している。
信長の不機嫌を煽っていることに気づいていないようで、縫物や織物に関しては目がない女である。
信長「こぎん刺し………」
「麻の折り目に対して、縫い目が奇数なんです」
疎い信長達はその説明だけでは理解できなかったが、舞はホクホクした顔で、自分のこぎん刺しの皺を伸ばしている。
つまりは天主で舞が懸命に縫い目を数えていたのは、暗号を読み取ろうとしていたのではなく、ないと思っていたこぎん刺しに感動し、刺し子の縫い目が奇数になっているか確認をしていたというところなのだろう。
理由をきいて信長は馬鹿くさくなってきた。
信長「貴様というやつは、どこまでも阿呆だな」
「な、なんですか急に。私は特に何もしていませんが」
信長「何もしていないが、俺達にいらぬ気を使わせた代償をいかにするか…」
「何もしていないのに、なんで償わなければいけないんですか」
信長「何もしていないが俺をわずらわせただろう」
「なんのことですか?」
結果、これから1週間、毎夜囲碁に付き合うということでなんとか折り合いがついた。
よくわからない難癖をつけられて、舞は膨れている。