第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
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春日山城は想像していた以上に広かった。
女中「ここまでで城の半分の案内が終わりました」
(半刻かけたのにまだ半分……広すぎるっ)
顔には出さずに心の中で唸る。
続けて案内しようと歩き出した女中を引き留めた。
(半分ってことはこれからまた半刻歩き通しってことでしょう?ちょっとこの人に休んでもらわなきゃ)
私は体力があるから平気だけど、大抵の女性なら一刻(2時間)も歩いて平気な訳がない。
「案内された内容を整理したいので、少しだけ休んでもよろしいか?」
女中「はい。ではすぐそこが空き部屋になっておりますので、そこでお休みください」
そう返事をした女中はホッとした様子で返事をした。やはり少し疲れさせてしまったようだ。
部屋に通されると女中が水を持ってやってきた。休んでもらいたいのに、こう動かれては元も子もない。
「私のことは良いから、この水はあなたが飲んで休んでください。
女性をこのように歩かせてしまって申し訳ない」
女中はびっくりしたように目を丸くしている。
女中「いえ、そのようなことは。慣れておりますのでお気遣いなさらずにどうぞ…」
(えーと、こういう時はどう言えば良いかな…)
父や兄の物言いを真似てみることにした。
「実はこれからお館様にお目通りする身。恥ずかしながら、いささか緊張しておりますので、水も喉を通りません。せっかくの水を無駄にするよりはあなたに飲んで欲しい」
(相手が気後れしている時は、まず自分に非があるようにすれば良いんだよね)
こう言えば気兼ねなく飲んでくれるだろうかと思ったら、女中は真っ赤になってしまい俯いた。
(なんかおかしなこと言っちゃった?)
その時、開いていた襖の向こうの廊下を人が通った。
一目で高貴な人だとわかる男性の傍には、先ほど話をした兼続様が立っていて、5歩ほど離れた場所に数人の家臣達がついている。
(この方が………上杉謙信様……)
剣術をたしなむ者にとって、憧れとも言える存在。
紹介されなくともわかったのは他者を圧倒する威圧感と、刃物のように研ぎ澄まされた雰囲気がにじみ出ているからだ。
兼続様の視線が私に向けられて、何か言う前にそれを察して謙信様は私を視界に入れた。