第21章 姫は間諜?(隠語・難易度1)
政宗「その話、まだ解決してなかったんだな。
さっき商人と舞の会話を聞いてきた。あいつらは隠語なんか使ってない。
れっきとした日常会話だ」
自信も露わにどっかり座った政宗に、秀吉は『あれが日常会話?』と怪訝な顔つきだ。
政宗の隣に座った慶次は天主を見回して満足げに頷いた。
慶次「役者は揃っているみてえだな!
秀吉がお困りのようだったから、ちっとばかし動かせてもらったぜ」
何か掴んでいる様子の二人に、信長は発言を許した。
信長「慶次、政宗、報告しろ」
慶次「まず舞の様子を見に行きましたが、確かに変な言葉を口走っている。
だが俺はあちこち放浪した身だ。ちょっと通ずるところがあって、政宗に協力を頼みました」
慶次に視線を送られて、政宗は続けた。
政宗「慶次に連れられて寺の境内に行ってみれば、あいつらは陸奥(むつ)の言葉で世間話しているだけだ。
しばらく聞いていたが何も怪しいことは言っていなかった。
信長様、舞は無罪です」
秀吉「陸奥の言葉だと?」
陸奥は政宗が治めている奥州のもっと北に位置している地だ。
道の奥の奥。冬は雪で閉ざされる極寒の地。
天主に集まった一同、地名は知っているが、誰一人足を踏み入れたことがない辺境の地だ。
政宗「もっと細かく分けるなら津軽だな」
光秀「あれが……同じ日の本の言葉だというのか?」
驚いているのは二人だけではなく、家康もだった。三成だけが確証を得て朗らかに笑っている。
三成「やはりそうでしたか。書物には『陸奥(むつ)の言葉は余所者が聞いたところで、何を言っているのかわからない』と記されておりましたので、もしかしたらと思ったのです」
政宗「訛りがきつくて俺も半分は聞き取れなかったが、あの商人は陸奥の津軽出身ではないかと。
光秀の有能な家臣といえども、津軽とは無縁の者だろ?
慶次は以前、庄内を放浪したことがあったらしく、訛りの共通点に気が付いて俺のところに来たんだ」
政宗は愉快そうに笑った。