第21章 姫は間諜?(隠語・難易度1)
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舞は城下から帰ってきた足で、天主に連れてこられた。
男達が疑惑を抱いているとも知らず、『天主に呼び出されるのは久しぶりですね』とニコニコと嬉しそうに笑い、『囲碁でもしたくなったんですか?』と呑気なことを言っている。
信長「ただ顔を見たくなっただけだ。黙ってそこに座っていろ」
「顔が見たいだなんて毎日朝餉をご一緒しているじゃないですか。
信長様ったら、ふふ」
まるで『寂しがり屋さんですね~』とでもいうふうに笑っている。
その顔には邪気はなく、いや、なさすぎて信長のこめかみに筋が浮かんだ。
秀吉は緊張感のなさに拍子抜けして、政宗に代わってやってきた光秀は何食わぬ顔で舞の一挙手一投足を観察している。
信長「黙っていろ、と言ったぞ」
その迫力は、信長の後ろに控えている小姓が顔を引き攣らせるほどだったが、舞は『はいはい』と肩をすくめている。
この日ノ本でこんな態度をとれるのは舞くらいしたものだ。
大人しくなった舞をよそに、男達は話を始めた。
秀吉がこれから半月程度のスケジュールを読み上げ、時間、場所の確認をするという内容だ。
最初は真面目な顔で聞いていた舞だったが途中で飽きたようで、手荷物から何か取り出して、しきりに眺めては感心している。
何を眺めているのかと信長が盗み見ると、紺色の麻の布地に白い糸で刺し子が施されている。
秀吉と光秀の目も、舞の手元に集中しているが、下を向いている舞は全然気が付いていない。
時折刺し子を凝視して難しい顔をしている。
舞が何故そんなに集中して見ているのか、三人は訝しんだ。