第21章 姫は間諜?(隠語・難易度1)
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情報を流すための偽のスケジュール確認が終わった。
信長「見飽きるほど見た。舞はさがれ」
「え?まだ何もしていませんが」
最初に会話したきり、あとは小一時間ばかり座っていただけだった。
舞は躊躇している。
信長「顔を見る用は済んだ。早く去れ」
舞は不満いっぱいの顔で、
「女の人の顔を見たいだけなんて、誤解されますよ、信長様」
信長「なんのことだ?」
「わからないんですか?理由もなくただ顔が見たいだなんて、恋をしてる人がすることですよ。
恋しくて恋しくて、顔だけでも見たい…みたいな」
芝居がかかった動作で胸の前で両手を組むと、うっとりした表情で目線を宙にやった。
秀吉は片手を額に手をやり、光秀は目を細めて笑っている。
信長「貴様なんぞの顔を見たところで何も感ずるところはない」
「む!超イケてるのに、そういうところが勿体ないです。
でもこういうビシバシオラオラ系に萌える子も結構いるんですよね」
意味の分からない言葉が小生意気な口からつらつらと出てきた。
無礼なことを言われている気がした信長は、持っていた鉄扇を苛立たしげに閉じた。
信長「……摘まみだせ」
信長が目配せをすると、小姓は折り目正しい態度で舞を天主から連れ出した。
「信長様、明日の朝も一緒にご飯食べましょうね!」
まだ舞が何か言っていたが襖がパシンと閉められた。
騒々しい足音と気配が遠ざかるのを三人は押し黙って待った。