第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
「どうしたのですか、父上。廊下を音を立てて走るなどはしたない…」
父上「尚善が帰ってきたのだ。来なさい」
「まぁ、兄上と会うのは久しぶりです!お元気そうにしていますか?」
兄上と聞き、立ち上がった。最後に会ったのはあばら骨を折って寝込んでいた時だ。
父上より先にたって廊下を歩く。
父上「会えばわかる」
父上のお部屋に入ると、懐かしい顔が私を迎えてくれた。
座っているその人に抱きついた。
「兄上!お元気そうで何よりです。もう春日山城には慣れましたか?
私が不甲斐ないばかりに苦労しませんでしたか?」
兄上「元気そうで何よりなのはお前だろう?まだ半人前だが、春日山ではなんとかやっているよ。不甲斐ないどころか優秀だったゆえに『尚文殿はもう戻って来ないのか?』と未(いま)だに言われる。お前に負けぬよう苦労しているよ」
「兄上が城にあがった時に馬鹿にされないよう頑張ったのですが…やりすぎましたか?」
兄上「そのようだな。この間も書類棚の引き出しがいっぱいになって開かなくなったんだ。
先輩達が『尚文が居た頃はすっきり片付いていたのに…』と嘆いておられた」
「嬉しいことです…ふふ」
笑っている私をひとしきり見た後、兄上は改まった口調で言った。
兄上「今日はただの里帰りではないんだ。父上とお前に文を届けるよう言われて来た」
「文ですか?」
背中に回していた腕を緩めて身を離した。
兄上は懐から文を取り出し、私に差し出してきた。
兄上「父上には先ほど渡して読んでもらったんだ。あとはお前に…」
(さっき父上が大慌てで部屋に来たのは文のせい?)
誰からだろうと差出人を見て固まった。
「………えーと、ちょっとお茶を…」
兄上「っ、人の茶を勝手に飲むんじゃない。俺が口をつけたやつだぞ」
「あら、では毒見がすんでいるということですね」
兄上「お前というやつは…」
兄上がぶつぶつ言っていたけれど無視した。