第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
それから2年の月日が経った。
兄上は春日山城で下積みを経て、晴れて正式な小姓として勤めている。
尚文は兄上の代わりに父と一緒に家をまとめている。元服の儀を済ませてすぐに良い縁に恵まれてお嫁さんを貰った。
「母上、いつまでもこの家に居るのは申し訳なくなってきました。
尚文の奥様に気を使わせてしまいますし、どこぞの寺にでも身を寄せようと思うのですが、取り計らって頂けないでしょうか」
短く切った髪がようやく背まで伸びたけれど、もうばっさりと切ってしまいたい。
母上「いつまでも居て良いのよ?肩身が狭いと言うなら、離れを使いなさい」
「いいえ…同じ敷地内に居るだけで人は気を使ってしまうものです。それに今後家族が増えたら、今は使っていない離れも必要になるでしょう?」
母上「だからと言ってお寺に預けるというのは許しませんよ。父上には相談しておきますから、早まったことを考えるのはやめてちょうだい」
「……はい」
この問答を続けて早1年が経つ。
結局うやむやにされるのがオチだ。
「はぁ……」
刀の鍛錬は禁止され、佐助殿が作ってくれた『すぺしゃるめにゅー』は、城からの荷物に入っていなかった。
どこにも行けず、楽しみもなく、駕籠の中の鳥になった気分だ。
(春日山で過ごしたひと月が懐かしいな…)
やりがいのある仕事に、親切にしてくれた先輩方、佐助殿と山を駆けまわって鍛錬し、外で食事をして…とにかく楽しかった。
また胸がズキリと痛んだ。
この屋敷に帰ってきたらうさぎを飼いたいと思っていたのに、謙信様を思い出してしまうからと結局飼うのはやめた。
腕の傷は二年経ち皮膚は青黒く変色し、引き攣れていた。
醜い傷跡だけれど、誇らしいと思うあたり、私はおかしいのだろう。
謙信様を思い出すからとうさぎを飼うのをやめておきながら、矢傷を見ては過去を誇らしく思っている。
「はぁ……矛盾してる…」
何度目かのため息を吐いた時、廊下を駆けてくる足音がした。
父上「いるかっ?!」
襖が開くと、肩を上下させている父上が立っていた。