第20章 空からサンタが降ってきた(謙信様)
サンタさんは実際は父親や園長先生が定番で、その辺を佐助君がどんなふうに説明していたのか……話を合わせるために聞いているべきだった。
答えに迷っているうちに謙信様が口を開いた。
低い声は静かに響いて鼓膜に染み入るようで、つい聞き惚れてしまった。
謙信「佐助が言うにはサンタは滅多に人前に現れず、掴まえられるのは奇跡に等しいそうだな。
これを漏れ聞いた下の者達は、俺が奇跡を手にしたと喜び湧いている」
この様子だと、佐助君はサンタの正体を明かしていなさそうだ。
サンタの偽物ですと言ったら犯罪者扱い決定だから気をきかせてくれたのかもしれない。
戦国時代は臨機応変が鉄則だ。
しかも攻略相手は最愛の謙信様。
(やるしかないでしょ!)
フンと鼻息も荒く立ち上がった。
床几の上に一旦ケーキを置いて、ダウンコートを脱いだ。
「この赤い服はサンタクロースの正装なんです」
謙信様が無言で驚いている前で、バッグの中から彼のために用意した干し梅の袋を取り出した。
実在しない推しのために自分でラッピングして持ち歩いていたんだから、自分でも重症だと思う。
少しズレていたサンタ帽子をかぶり直し、乱れた前髪を手ぐしでササッと流す。
雑だけど身だしなみOKだ。
「時間にズレがあるようですが、私が居た場所は今日が師走月の24日でした。
メリークリスマス、謙信様!
あなたにクリスマスケーキと贈り物を届けに来ました。生憎ケーキは柔らかいので崩れてしまったと思いますが、良かったら食べてください」
謙信様は胡散臭そうな顔でケーキの箱と私を交互に見ている。
簡単に信じてくれないのは予想済みだ。