第20章 空からサンタが降ってきた(謙信様)
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佐助「え………。
謙信様、そのサンタクロースはどうしたんですか」
本陣まで走り抜け、そこで迎えてくれた佐助君に仰天された。
知的で無表情な彼に会えて、テンションがグイっと上がった。
話してみたいという願望を抑え込み、様子を伺うことにした。下手に動いて不審を買ってしまったら謙信様と引き離されてしまう。
このあと越後に向かうのだろう、家臣の人達は慌ただしく本陣の片付けにかかっている。
謙信「三太?」
信玄「黒酢?」
佐助「サンタクロースです、謙信様、信玄様。
サンタクロースというのは………で、クリスマスに……で……キリスト教の……」
佐助君が説明している間、用意された木製の椅子に座って『これが床几ってやつ?』と感心していると、どこからともなく家臣の人が歩み寄ってきてクリスマスケーキを返してくれた。
「返してくれるの?」
家臣「はい。謙信様がお許しになりました」
「ありがとう……」
ビニールについていた水滴はすっかり乾いていた。
馬で運ばれたに違いないから、中のケーキは悲惨なことになっているだろう。
「それにしても夢にしては設定が細かいなあ」
ケーキを渡してくれた人の手足は泥ハネや、埃、あまり想像したくないけど赤っぽいもので生々しく汚れていたし、鎧や馬具も、私の知識にはないものまで再現されている。
怖い夢を見た時のように『起きよう』と意識してみたけど、なんの変化もない。
「おかしいなあ?」
謙信「おかしいのはお前だ。サンタは師走月の24日深夜に仕事をするそうではないか。
何故俺の上に降ってきた」
独り言に返事が返ってきたので驚いた。いつの間にか謙信様が傍に来ている。
本陣の幕は仕舞われて外の景色が見えた。
他の人達は荷物をまとめにかかっており、とても忙しそうだ。
「私はその………」
佐助君の説明通りにサンタを信じきっているところが、どうしようもなく可愛い。
(まあ、知らなかった物事を教えられたら、丸ごと信じちゃうってことあるよね)
謙信様の端正な顔を見ながら、『サンタの偽物です』と言ったら、この人はガッカリするのかなと少し悩んだ。