第20章 空からサンタが降ってきた(謙信様)
謙信「黙れ、信玄。お前もこの女が空から降ってきたのを見ていただろう」
信玄「ああ、見ていたよ。どうせなら俺のところに降ってきて欲しかったがな」
謙信「そんなに欲しければくれてやる。信長とやり合う絶好の機会だというのに、女にかまっている暇はない」
(そんなあ…)
謙信様が私を信玄様に引き渡そうとしたので、悲しくなって目で訴えた。
邪魔だ、要らない。言外にそう言われて、悲しくて……
目を潤ませた私に気が付き、謙信様の眉間にキュッと眉が寄った。
謙信「っ、そんな目で俺を見るな」
二色の瞳が狼狽えるように揺れている。
「だって…」
信玄「まあまあ。お前の上に降ってきたんだから何かしらの縁があるんだろう。
今日は信長との顔合わせの予定だったから、もう潮時だ。引きあげるぞ」
信玄様が撤退の命を出すと静まっていた周囲が騒がしくなった。
もしかして置いて行かれるのだろうかと不安になり、謙信様を見上げると底冷えした視線とぶつかった。
(う、この蔑んだ眼差し。ブリザードだ…)
文字を追っていた時には『冷ややかな視線を受けて…』という文章も余裕で読んでいられたけど、今は絶対零度の冷気を感じて『ひ~』と亀のように縮こまった。
謙信「本意ではないが戦場に女を捨て置くわけにはいかない。
俺の馬に乗せてやる。そこが一番安全だ」
「あ、ありがとうございます」
怖がっていたのを忘れ、このままバイバイじゃないんだと感激した。
万歳したいくらい嬉しい。
謙信様は一旦私を地面に降ろし、ケーキの箱を取り上げて近くにいた兵に渡した。
謙信「早く乗れ。俺が去らなくては、ここを守っている兵達が動けない」
「あ、でも、馬に乗ったことがなくて…」
ミニスカートのワンピに目を留め、謙信様は苛立たしげにため息を吐いた。
手間がかかると呆れているんだろう。