第20章 空からサンタが降ってきた(謙信様)
ところが殊更強い風がビュウと吹いた。
それは私や歩いていた人達が思わずよろけてしまうくらいの強風で、飛んできたバケツがガランガラン!と乾いた音を立てて猛スピードで飛んでいった。
「さむっ!あ、でもあの人が居る越後は雪深いところだから、この寒さに慣れておけば一緒に住んだ時とか、良いかも?」
寒すぎて思考が馬鹿になったのは仕方なかった。
もう寒すぎてケーキを手に乗せている感覚がない。
ビュービューと吹く風と一緒に、顔に雪の粒があたって溶けていく。
謙信様に「今夜は一段と愛らしいな」と言われたいがために頑張ったメイクも崩れているだろう。
「さむい……!」
もうこれは雇われた身とはいえ、許容範囲を超えて命の危険を感じる。
店内に入れさせてもらおう。
ふと空を見あげると、雲の切れ間に奇跡的に星空が見えた。
雪雲は恐ろしい速さで動き、今にも見えなくなりそうな隙間に…流れ星のようなものが見えた。
「うそっ!?」
流れ星か、サンタクロースか、ただの気のせいか。
よくわからないけどとりあえずお願いをした。
「どうか、謙信様に会わせてください!」
3回なんて時間的に無理だから、1回だけ。
星にお願いするなんて、現実主義の私は普段なら絶対しなかった。きっと寒さで頭が参っていたに違いない。
でも頭がどうかしていたのが幸いだったと、後から何度も思った。
何故ならその瞬間……私はホワイトアウトの世界に取り込まれ、身体が宙に放り出された。
「え?何!?突風?竜巻?きゃあ!!」
ドサ!!!!
お尻に衝撃を受けた。
「あいたた………」
内臓が体内でシャッフルされて気持ち悪い。眩暈を感じながらも目を開けると、ビニールの包みに入ったケーキの箱が少し潰れていた。
「うそっ!?これって自腹切んなきゃだめかなぁ…」
??「女。人に抱かれたまま腹を切る気か?」
(え?)
この地球上で一番心地よいボイスが耳に飛び込んできて、ケーキばかり見ていた視線を上げれば、そこには………