第20章 空からサンタが降ってきた(謙信様)
「ふー、落ち着け落ち着け。こういう時こそアンガーマネジメントよ!」
怒りを鎮めるためにスマホを取り出し、お気に入りのアプリを起動する。
ゼロにしてあった音量を少しだけ上げて、スマホのマイク位置に耳をあてると、推しキャラの声がアプリの名を言ってくれた。
耳がとろけそうになる声を聞いたら、もう少し頑張れる気がした。
「あと少しでバイト時間も終わりか。ケーキを押し付けられる前にさっさと帰ろうっと」
お疲れ様の挨拶をしたら直ぐ帰れるように、ミニショルダーバッグを肩から下げ、その上からダウンコートを着た。
「私服もひとまとめにして、と」
サンタ服を着て電車に乗ったら変な人にからまれそうだし、駅のトイレで着替えさせてもらおう。
スマホをバッグに戻してロッカー室を出た。
店長は10分かそこら外にいただけでガタガタいっていて、鼻で笑ってやった。
ケーキを両手で持ち、外に出る。
もう19時を過ぎ、さっきよりも人影はない。
街灯を見ると、斜めに降る小雪がよく見えた。
この調子では直に本降りになり、公共交通機関がストップしそうだ。
「はあ、彼氏が欲しいなぁ…」
身体を震わせながら独り言を言う。
昔から2次元のキャラにしか興味がなくて、大人になった今もそれは変わらない。
大学生だから出会いがないわけじゃないし、デートのお誘いも何度かあった。友達にも『彼の友達でよければ、紹介するよ~』と声をかけられることもしばしば。
でも全部お断りしている。
理由はリアルの男性に全く心が動かず、胸がときめくのは2次元キャラだけだからだ。
これに関しては小学生の頃からその傾向にあり、これからも治る気配がない。
新しい服も、メイクも、髪型も、全部推し彼のためだ。
今日着ている白のダウンコートやベージュピンクのバッグだって、『こんなふうにしたら彼は喜んでくれかな』と想像しながら買ったくらいだ。