第20章 空からサンタが降ってきた(謙信様)
寒い日にマッチはいりませんか?と売り歩き、誰にも相手をしてもらえなかった少女のお話を思い出し、身体をブルルと震わせた。
「うー、寒い!売り切るなんて無理だよ絶対。
しかもあの店長、売れ残ったらバイトに押し付けてきそう」
1人暮らしなのにホールケーキなんてやめてくれって話だ。
ブツブツ悪態をつきながらそれでも頑張って1時間ばかり売り続けた。
途中から小雪が吹き付け、あまりの寒さに店内に入ろうとしたら、無情にもビニールの包装をしたケーキを1箱渡された。
(?どこかに出張配達とか?)
このケーキはなんだろうと無言で問いかけると、店長は外の吹雪を見ている。
店長「雪が降ってきちゃったね~。店先の屋根の下になら入ってもいいよ。
ケーキが濡れちゃうといけないから、外に出していたケーキは全部引き上げるから、舞ちゃんが1個だけこうして持ってて」
まだ売ろうとしている店長に心底呆れる。
いくら短期パイとで浅い付き合いとはいえ、この格好で1時間も外で頑張った人間に労いの言葉1つないのだろうか。
「店長、申し訳ないんですけど寒いので、少しの間変わっていただけませんか?」
ずっと店内に居て、足元にヒーターを置いている店長に、少しはこの寒さを思い知れ!と内心で悪態をつく。
店長「トイレ休憩くらいなら良いよ。
今日はなんだか電話が多くてさ、バイトの君じゃつとまらないでしょ?
早く言って来てね~!」
ぶっ通しの仕事で水分補給もしていないのにトイレに行きたくなるわけがないでしょうが!と怒りながら、トイレには行かずロッカー室で休憩を取った。
バックスペースは暖房がきいていないけれど、風が吹きつけないだけ天国のようだった。
「電話なんて嘘じゃん。さっきから店内を見るたびに暇そうに欠伸してたくせに!」
頭にきてゴミ箱を蹴りそうになって理性がそれを押しとどめた。
そんなことをしてもバイト代を貰えなくなるし、ゴミ箱の弁償やら、なんの得にもならない。
しかもあんな店長に頭を下げるなんて絶対嫌だ。