第20章 空からサンタが降ってきた(謙信様)
今シーズン最強の寒波は、よりによってクリスマスにやって来た。
大気がかき混ぜられるような音がしてゴオと強い風が吹いている。体感温度は実際の気温よりも低く感じ、道行く人は身を縮めて足早に歩いていく。
綺麗に飾られたクリスマスツリーはザワザワと左右にしなり、道路上には飛ばされてしまったオーナメントがコロコロと転がっている。
「さむっ!こ、こんな時に外でケーキを外で販売しろなんて超ブラックじゃない!?」
悪天候のためかクリスマスケーキの売れ行きが良くなくて、短気バイト先の店長に『悪いけど外で売ってきてくれる?あ、コートは着ても良いけど、サンタ服が見えるようにコートの前は開けておいてね。いってらっしゃい!』なんて軽い口調で言われてしまった。
『バイト終了後は持ち帰って良いよ』と支給された安っぽいサンタ服はペラペラで、太もも半ばまでのミニスカートなのに、だ。
冷気にさらされた足が血色の悪い色をしている。
求人情報には『予約ケーキの手渡し、会計等』と書かれていたが、実際その業務は店長が行い、私は客寄せパンダの役を担っている。
「『会計等』の『等』がメインじゃない!
これで時給1000円って安すぎ!食品ロスを減らそうっていう時代なんだから、予約以外のケーキをあんなに作るなんてありえないよね…」
もう18時だ。ケーキ販売のピーク時間は過ぎているのに、店内のテーブルと店先に出ているテーブルを合わせると、当日販売用のケーキが20個近く残っている。
完全に需要予測を間違えている。
こうして外に立っていても人影はまばらだ。
クリスマスイブに、しかもこんな大寒波がきている夜にのんびり歩いている人はいない。
「クリスマスケーキはいかがですか?」
足早に歩いてく人に声をかけても、ちらっとこっちを見るだけでケーキを買ってくれる人は居ない。
歩いている人達だって、こんなところで足を止めてケーキなんか買いたくないだろう。