第19章 蘭丸君とメリークリスマス(2022年)
蘭丸君の優しい気持ちが、その人に届けば良いなと思う。
ううん、もしかしたら蘭丸君が訪ねていくだけで、その人にとっては幸せなのかもしれない。
蘭丸「うん、大好き!難しいけど、いつか舞様にも会わせてみたい。
あの人がびっくりして目を丸くするような、突拍子もないことをして欲しいな」
「私を笑いの種にするつもり?」
突拍子もないことをして驚かせるのは信長様からも墨付きをもらっているとはいえ、私が目指す女性像とはズレているんだけどな。
蘭丸「だって舞様が居るところには必ず笑いがあって癒されるもの。しかも無意識でしょ?凄い才能だと思うよ。
あの人はいつも自分を押し殺しているから、あまり笑わないんだ。
だから舞様の力で笑わせてあげて欲しい」
(私の周りに笑いがある?)
ここに居場所を作ってはいけないと思いながら笑っていた私だけど、周囲に笑いという和みを与えていたらしい。
蘭丸「帰ってほしくないけど、舞様はいつか帰るかもしれない。
でもそれまででもいいからさ、素直に楽しい、おかしいって笑ってて欲しいって思うよ。
舞様は家族にいつまでも悲しんでもらいたい?心配して憔悴しきって欲しい?」
そう聞かれて即座に顔を横に振った。
そんなことない。私のことを忘れないで欲しい気持ちはあるけど、心身を弱らせて欲しいとは思わない。
できるなら…笑っていて欲しい。
考えがそこに至り、鼻の奥がつんと痛くなった。
思い出した家族や親友の顔は笑顔だ。
私の行方不明という心配を抱えていても、どうか笑っていて欲しい。
「笑っていて欲しい。できるなら、クリスマスもいつも通り過ごして、ケーキ食べて、ご馳走食べて……。
時々で良いから私のこと、思い出してくれていたら、それでいいかな」
涙ぐみながら言った私を、蘭丸君は大人びた笑みを浮かべて撫でてくれた。
頭に乗せられた温かさに目を閉じた。
私の家族だってそう思ってるだろう。
行方不明でも、どこかで生きていて笑っていてくれたらと願ってるはずだ。
(そっか……。私、ここで笑っていても良いんだ…)
そう気が付いたら、晴れ晴れとした気持ちになった。