第19章 蘭丸君とメリークリスマス(2022年)
「あ、そうだ!」
女中さんが置いていった手洗い用の桶に手ぬぐいを入れて濡らし、絞ったものを蘭丸君に渡した。
「はい、どうぞ」
蘭丸「これ、どうするの?」
「ふりまわして!こんな感じに!」
手ぬぐいの端っこを持って、ぶんぶんと頭上で振り回す。
こうすると濡れた手ぬぐいが匂いを吸収するってTVでやっていた気がする。
蘭丸「ええ!?」
「濡れた布が匂いを吸収するの。騙されたと思ってやってみて!
クリスマスの夜に秀吉さんにお説教されたらたまんないよ」
蘭丸「そうだね」
二人で手ぬぐいをぶんぶん回す姿はおかしくて、最初は真剣にやっていたけど笑いが止まらなくなってきた。
「ぷ、何やってるんだろうね、私達、あはは」
蘭丸「ほーんと、おっかしいよね。こんなこと、子供の時でもやらなかったよ?」
そう言いながら蘭丸君は目がキラキラしている。
アイドルみたいな蘭丸君じゃなくて、素で今の状況を楽しんでいるように見えた。
「あはは、たのしーね!」
鬱々と過ごしていた日々がくだらないことのように思えて、久しぶりにお腹の底から笑った。
匂いが薄れてきたところで、お香を焚き始めた。
これで煙臭いのを誤魔化せると良いけど…。
秀吉「入るぞ、舞。お前達……何してるんだ?」
根気よく手ぬぐいを回しているところに秀吉さんと三成君が部屋を訪ねてきた。
私と蘭丸君を見て、二人とも目が点になっている。
「え?えー…、手ぬぐいを高速回転したら人は浮き上がれるか、っていう実験をしてるの」
蘭丸君が小さく吹き出した。
黙っていれば、蘭丸君が気の利いた言い訳をしてくれたかもしれないのに、私ったらなんて苦しい言い訳を……。
案の定秀吉さんは、理解不能といった表情だ。
秀吉「はぁ?」
三成「残念ですがお二人とも、それは無理ですよ。
人を浮き上がらせるためには、何人もの力を合わせないとできないものです」
「そ、そうだよね。無理そうだからソロソロやめようかって話していたところなの。
ところで秀吉さんと三成君は何か用事?」
やめる理由ができたので、手ぬぐいを回すのをやめて桶の中に入れておいた。
火薬臭いと怪しまれなかったところをみると消臭効果はあったらしい。