第19章 蘭丸君とメリークリスマス(2022年)
「だ、ダメなの。サンタさんは姿を見られると、二度と来てくれないって言われているんだよ。さあ、寝っ転がってね」
サンタを信じる子供をあやす、母親の気分だ。
蘭丸君は渋々横になり、私も言い出した責任をとって靴下を頭の上に置いて、蘭丸君の隣に寝転んだ。
「あ、そうそう!サンタさんにはプレゼントをくれたお礼にお菓子をあげる決まりなの。
クッキーしかないけど、貰っていってくれるかな~」
嘘を並べ立てて申し訳ないけど、せっかく来てくれた佐助君を手ぶらで返すわけにはいかない。
静まった部屋に天井板が動く小さな音が響くと、警戒した蘭丸君は身を固くした。
この時代、天井裏から出入りするなんて忍び以外考えられないんだから当たり前の反応だろう。
いつもは足音を立てないよう着地する佐助君は、わざと音を立てて降りてきた。
おそらく音をたてずに降りたら忍びだと見破られるから、サンタクロースを演じてくれたのだろう。
(せっかく会いに来てくれたのにごめんね、佐助君!)
寝たふりをしながら、心の中で謝った。
頭の上でゴソゴソと音がして、何秒かすると空気が動いて天井板を動かす音がした。
気配が去ったのを確認してから、身を起こし、蘭丸君に声をかけた。
「蘭丸君、サンタさんが帰ったみたい!見て、プレゼントだよ!」
蘭丸「俺にも?っ、これって……」
靴下には可愛い花柄の手ぬぐいと、手作りらしきクラッカーが2個入っていて、蘭丸君のところにはまきびしが10個と、判別できない奇妙なものが置いてあった。
蘭丸君へのプレゼントは想定外だったから手持ちの物で賄ったんだろうけど、一体なんだろう?
「ねえ、それって何かわかる?まきびしはわかるけど…」
蘭丸「多分これは食べ物だ」
「これが食べ物?」
蘭丸君がおそるおそる手に取り、匂いを嗅いだ。
蘭丸「やっぱり…。これは食事をとる時間がなかったり、食事を作れない状況で食べる非常食だよ」
「食事を作れない状況って、どんな状況?」
蘭丸「煮炊きすれば敵に見つかる恐れがあるとか、見張りをしていてその場を動けない時とか」
なるほど、つまりこれは佐助君が携帯している忍者食ってことか。