第19章 蘭丸君とメリークリスマス(2022年)
蘭丸「この形はじんじゃーまんだったよね。可愛いからどこから食べようか迷っちゃうな」
「だよね~。っていう私は一口でいっちゃうけど」
ポイっと口に放りこむと、蘭丸君も私の真似をして一口で食べた。
蘭丸「うん!ショウガの風味が良いね、美味しいよ!
舞様が作ったお菓子を食べられるなんて嬉しいな」
「こんな感じで良ければいつでも焼けるよ?」
蘭丸「本当?じゃあ、今度甘えちゃおうかな」
「ふふ」
失礼しますと声がかかり、女中さんがお茶と軽食を持ってきた。
お膳には小さなおにぎりや、小魚の佃煮、根菜の煮物が入った小鉢が並んでいる。
蘭丸「この時間にお菓子を食べたら、普通の夕食だと多いかなと思って軽いものを頼んだんだ」
「ありがとう!」
蘭丸「どういたしまして♪ご馳走は明日にしようね」
「え?」
今度は蘭丸君が『え?』という顔をしている。
蘭丸「だって、クリスマスはご馳走を食べるって言ってなかった?」
「言った、うん、確かに言いました。覚えててくれたの?」
蘭丸「やだなー、ついさっきのことを忘れるほど、おじーさんじゃないよ、俺は」
「それは分かってるよ!サラッと説明したから、覚えていてくれてびっくりしたんだよ」
ふーん、そうなんだ、で終わったと思っていたのに、明日のご馳走まで考えてくれて凄く嬉しい。
蘭丸「舞様の中で、俺はそんなに薄情な人間なんだ。傷つくなあ」
「ご、ごめんね。全然そんなつもりじゃなかったの!
蘭丸君は気遣いのできる天才だよ…って笑ってるし!」
蘭丸「焚火の時のお返し!」
「やられた……」
和やかに過ごしていたその時、楽しそうに笑っていた蘭丸君の表情が、突然無機質なものに変化した。
気に障ることを言っていないし、どうしたんだろうと首を傾げていると、蘭丸君は着物の袖から短刀を取り出して引き抜くと、天井に向かって投げつけた。
(えぇ!?)