第19章 蘭丸君とメリークリスマス(2022年)
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私が部屋に戻るのと同じタイミングで蘭丸君はやってきた。
「着替えるの早くない?」
蘭丸君が寝起きしている部屋は天主に近い場所だから、私の部屋からは結構距離がある。
大急ぎで来てくれたのかと思ったけど、着物はきちんと着ているし、息も切れていない。
蘭丸「そうでもないよ。厨に寄って、あったかいお茶を頼んできたよ。
多分すぐ届けてくれると思う」
「ありがとう!さすが信長様の小姓だね!」
お礼を言いながら凄いなと思った。
厨に行ったとすれば回り道をしてここに来たことになるのに、到着は私と一緒だった。
蘭丸君は早着替えの達人で、走るのも早くて、体力がめちゃくちゃあるのかもしれない。
用意しておいた座布団をすすめて、午前中に焼いたおからクッキーを早速お披露目した。
「じゃーん!小麦粉があまりなかったから、おからクッキーにしてみたの。
手に入らない材料があったから、私が知るクッキーと少し違うんだけど、どうぞ!」
蘭丸「わあ、本当だ、色々な形してるんだね。
これは?なんでこんな木の形してるの?」
「それはクリスマスツリーって言って飾りを施した木なの。秀吉さんにお抹茶を分けてもらって緑色にしたんだ。で、そっちのが雪だるまに、靴下」
蘭丸「靴下?」
「靴下は足袋と同じで足に履くものだよ。クリスマスの夜にはサンタのおじさんが来て、靴下の中に贈り物を入れてくれるんだよ。
今回はきな粉味にしてみました♪」
クッキーを見ていた蘭丸君が、じゃっかん眉を寄せ気味にして私を見た。
蘭丸「え…知らないおじさんが夜に来て、贈り物を履物の中に入れるの?」
明らかに『そんなの嫌だ』という顔をしていて、笑いがこみあげてきた。
サンタクロースのためにも、説明を追加しなくちゃ。
「普段使いしている靴下じゃなく、プレゼント用の大きめの靴下を置く子も居るよ。
私の靴下はこんな感じ」
布の端切れをパッチワークにして作った靴下を蘭丸君に見せた。
履き口に紐を通しているので、クリスマスが終わったら巾着として使う予定だ。
蘭丸「へえ…」
蘭丸君が興味深く耳を傾けてくれて、サンタクロースのことや、ソリにたくさんプレゼントを乗せて夜空を駆けると説明すると夢があるお話だねって笑ってくれた。