第19章 蘭丸君とメリークリスマス(2022年)
蘭丸「話してくれてありがとう。君の気持ち凄くわかるよ。
辛かったよね、ホント気づかなくてごめん」
「ううん、話したら少しスッキリしたよ。
こんなこと考えてるなんて申し訳なくて、誰にも言えなかったんだ。内緒にしてくれる?蘭丸君」
蘭丸「もちろんだよ。
ねえ、間違ってるかもしれないんだけど舞様ってこの世の人じゃないの?」
「えっ?」
近からず遠からずのことを蘭丸君は大まじめな顔で聞いてきた。
『この世の人じゃない』っていうのはどういう意味だろう。
死んでいるかってこと?亡霊みたいな?
蘭丸「俺さ、声をかける少し前から舞様の様子を見ていたんだ。
舞様が口ずさんでいた歌……歌詞も、拍子も、俺が知っている歌とは全然違う。
この世の歌じゃないみたいだった」
「それは……」
慌てる私に蘭丸君は何か決心したような顔つきになった。
繋がり合った手に、ちょっとだけ汗が滲んでいる。
蘭丸「ねえ、舞様。さっきの悩みを秘密にするかわりに、俺が持っている秘密も内緒にしてくれる?」
突然の相談に戸惑いながらも頷いた。
蘭丸君のトレードマークの笑顔は鳴りを潜め、すごく真剣味を帯びていたから。
こんなに真剣に秘密を打ち明けるとしたら、きっと重要な秘密だろうと、どんな秘密なのかと好奇心が沸いた。
蘭丸「本能寺で舞様を見たんだ」
心臓が跳ねた。
本能寺で信長様を助けたんだから、目撃されたこと自体は不思議じゃない。
でも蘭丸君が言う『見た』というのは、もっと違う意味が含まれている気がした。
蘭丸「建物に火が回って、いよいよ信長様が危ないっていう時に、キラキラと星屑が舞って、その中心に舞様が現れたのを目撃した」
「待って、たしか蘭丸君は火をつけられた時点で怖くなって逃げたっていう話じゃなかった?」