第19章 蘭丸君とメリークリスマス(2022年)
雪が積もっているのに足音がしなかった。
驚いて振りむくと、背後に蘭丸君が立っていた。
なんか雰囲気が違うと思ったら、小姓姿じゃなく見たことのない服装だ。
小姓姿はふんわりした色合いで可愛いけど、暗い色のタイトな服装もよく似合っている。
動きやすそうな格好に、これから出かけるのかなと何となく思った。
「ちょっとね、遠くに居る人に文を届けていたの」
私が言うと、蘭丸君は可愛い顔を陰らせた。
蘭丸「もしかして……この焚火って狼煙か何かなの?」
自分が抱いた疑惑の真偽を見極めようと、蘭丸君の視線は揺るぎなく私に向けられている。
女中さんに囲まれている時の彼とは別人だ。
華やかな蘭丸君にも、こうして人を疑い、問い詰める事もあるんだと、初めて見る顔を見返した。
戦国時代だし、人を疑わなければ殺されてしまう時もある。
アイドルみたいな蘭丸君だって、やっぱりこういうところは戦国時代の人なんだと実感した。
「の、狼煙じゃないよ、ただの焚火。裏切ったりとか、変な合図とかそういうのじゃないからね?
ずっと、ずっと遠くの…、もう会えないんじゃないかと思うくらい遠くに居る人に向けて文を書いて、燃やしたの。
そうすれば届くんじゃないかと思って。馬鹿でしょう?」
他人に説明していると、いかに意味のないことをしたのか、自分でも呆れる。
届くはずないのに。
ばつが悪くなって苦笑いすると、蘭丸君は信じてくれたみたいで疑いの色を消した。
蘭丸「舞様が裏切ってなくて良かった。君が間諜の類だったらどうしようかと思ったよ。
遠くって、もしかして文の相手は亡くなってるの?」
蘭丸君は私の行動を馬鹿にせず、少し悲しそうに焚火を見ている。
「生きてるよ。生きてるけど、凄く遠いところに居るの。
家族や友達とかね、凄く大事な人達なのに会えなくて…突然こんなに遠くに私だけ来てしまったから心配してるだろうなって、だから文を書いたの」
蘭丸「届ける手段がないから……燃やして届けようとしたの?」
いたましいものを見るように、蘭丸君の顔が歪んだ。