第19章 蘭丸君とメリークリスマス(2022年)
「よし、そろそろ良いかな」
火が落ち着いたのでクリスマスカードを取り出した。
現代に居た頃は年賀状で挨拶するからと、クリスマスカードは書いたことがなかった。
和紙で作ったカードが手の中でカサリと音を立てる。
家族と、親友二人と……全部で3通だ。
それを一瞬見つめ、火にくべた。
紙が燃える匂いがして、あっという間に白い紙はチリチリと細かい灰になってしまった。その灰が上昇気流にのって雪のように白く舞う。
「天までのぼって……私のメッセージ、届くかな」
舞い上がった紙片の名残を追いかけて、私も立ち上がった。
戦国時代にタイムスリップしてから半年が経つ。
ワームホールに吸い込まれた私は失踪または誘拐扱いだろう。きっと皆探しているに違いない。
そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになり、クリスマスカードには近況と、心配かけてごめんなさいと書いた。
クリスマスカードは、クリスマスを一緒に過ごせない大切な人に贈るカードだったはず。
だから気持ちを込めてメッセージを書いて、燃やした。
郵便ポストの代わりだ。
私の手を離れたカードを誰かが回収して、届けてくれるかもしれない。
そんな奇跡みたいなことを本気で考えて実行した。
安土の皆は厳しいけど良い人達ばかりだし、女中さんや針子仲間の子達とも仲良くなった。
一緒に笑い合って、楽しいな、嬉しいなと思えば思うほど、胸が痛んだ。
現代に居る家族や友人達に心配をかけておいて笑っている場合じゃないでしょと、自分を責めた。
存在自体がイレギュラーであり、戦国時代で居場所を作って良いはずがない。
私の場所は500年後なのに、何をしているんだろうと、時々胸をかきむしりたくなる衝動にかられた。
だからクリスマスカードを燃やすという行為は私の自己満足の儀式。
忘れないよ
忘れないでね
帰るから
待ってて
諦められない願いを祈りにかえる儀式。
クリスマスカードが完全に燃えてなくなったのを確認していると、
?「何してるの、舞様」
探るように問いかけられた。