第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
(謙信目線)
後ろから聞こえていた足音がしなくなり、振り向けば尚文が倒れる寸前だった。
咄嗟に腕を伸ばして身体を支えてやる。
(細い)
以前手首を掴んだ時もそう感じたが、並みの男より一回りも二回りも細い。
こんな細い身体で刀を振るい、敵襲を凌いでいたのかと驚いた。
謙信「尚文、起きろ」
声をかけても瞼はかたく閉じられて動かなかった。
謙信「……」
一度座らせ、怪我を確認した。
矢傷には応急処置が施されている。
両腕を確かめ、袴を捲りあげ足を見た。
すらりと伸びる細い足にまた驚いた。
脛に毛はなく、しっとりとした白肌だ。
左脛に痣ができているのを確認し、袴を元に戻した。
眠っている顔を凝視する。
(まさか……)
喉元に触れるが、喉仏が出ていない。
まだ子供だといえばそうだろうが、あまりにも引っかかりのない喉元だ。
休みの日まで着物をきっちりと着こみ、湯浴みの手伝いを頑なに拒んでいた姿が脳裏に浮かんだ。
うさぎを愛でている時、口元を綻ばせていた横顔は綺麗だった。
和紙で折られた花……そして、
信玄『結構胸板がるんだな』
『っ、お戯れはおよしください』
家臣『花を摘むなど本当に女のようだ』
家臣『道場で姿を見た者は居ないらしいですぞ』
『道場の雰囲気は少し苦手で…』
何気なく見聞きしていたことに秘められた真実。
謙信「……」
着物の袷に手を伸ばした。
兼続「謙信様、残党はおりませんでした。尚文は無事ですか?」
報告に現れた兼続の声に、伸ばしていた手を引っ込めた。
謙信「毒矢を受けて気を失っている」
兼続「では部屋に運び入れて処置を致しましょう。誰か!尚文を運んでくれ!」
謙信「待て、俺が運ぶ。医師を俺の部屋に寄こすよう手配しろ」
兼続は一瞬躊躇の色を見せたが、すぐに頷いた。
尚文を横抱きにして、その軽さに確信する。
(尚文……お前は…………)