第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
(終わった……)
謙信「歩けるか?」
「はい。助けて頂きましてありがとうございました。
これ…あの人達の身元がわかるかと思って奪ったのですが、捕縛できたなら必要ないですね」
懐から手裏剣と苦無を取り出して謙信様に見せた。
謙信「いや、受け取っておこう」
謙信様の手に預けると肩の荷がおりた気がした。
「襲撃が終わっていないのに、どうしてここに来たのですが?」
歩き出した謙信様の後ろをフラフラとついていく。
謙信「……もう一戦しようとしただけだ。刀を抜くまでもなかったが…」
心底つまらなさそうにしている。
「ひと蹴りでしたものね」
笑いがこみあげてきて口元をおさえたけど、クスクスと漏れてしまった。
いつも優雅な謙信様が、まさか人を吹っ飛ばす程強く蹴るなんて…凄く貴重な瞬間を見られた。
(それに…)
『俺の持ち物に何をしている?』
思い出して胸が苦しくなった。
(物扱いでも光栄だ)
幸せだな…そう思ったら足から力が抜けた。
視界が狭(せば)まり、前を歩く謙信様が離れていく。
ぼんやりとした意識の中、矢傷の痛みだけがズキズキと痛んだ。
(ああ…意識を失ったらいけない…。それとも私、このまま…死んじゃうのかな…)
あれ程気をつけていたのに、私の意識はあっさりと暗闇に落ちた。