第17章 あなたの愛に完敗(光秀さん)(R18)
「光秀さん、助けてください!!変な人が……えっ?」
やっとたどり着いた部屋に飛び込むと、部屋はもぬけの殻だった。
文机の上は綺麗に片付いており、奥の間に見える褥には人が寝た形跡がなかった。
(いない!)
もしかしたら緊急の仕事が入って出かけてしまったのかもしれない。
頼みの綱が切れ、背後の不審者を確かめるべく勇気を振り絞った。
(お化け?泥棒?誘拐犯?)
ドクンドクンと心臓が激しく鳴っている。
(どうかお化けなら可愛いお化けでありますように)
こんな時にハロウィンの可愛いお化けが脳裏に浮かんだ。
(どうか強盗とか刺客とか怖い人じゃありませんようにっ……!)
決死の覚悟で犯人を確かめると…暗がりに男の人の足が見えた。
ひとまずお化けじゃないと胸をなでおろした後、見覚えのある寝間着の裾に『あれ?』と首を傾げた。
もしやと視線を上に向けると、私を見おろしていたのは寝間着姿の光秀さんだった。
「な、なんだぁ、光秀さんだったんですね。お化けかと思った……」
緊張が一気に解けて、ヘナっと畳に座り込んだ。
(心臓に悪すぎる!)
光秀「酒を取りに行って部屋に戻ろうとしたら舞の背中が見えてな。
及び腰で歩いていたから一人が怖いのだろうと後ろを歩いてやった」
「怖そうに歩いていたなら声をかけてください!
無言で背後を歩かれる方がよっぽど怖いですっ!」
私が怒っても光秀さんは気にする様子もなく、流れるような動作で持っていたお盆を置いた。
徳利とおちょこが乗っている。
光秀「それは悪いことをしたな」
「絶対そう思っていないですよね」
またいつもの意地悪だろうかと頬を膨らませると、光秀さんはからかいの色を消して言った。
光秀「用事が早く終わって俺に会いに来たのだろうが、御殿の中とはいえ夜更けにひとり歩きをするな。お前を狙っている輩は多い。気をつけろ」
(そうだった。忘れてた…)
何故か『舞姫は織田信長の寵姫』という噂が広がり、城下だけでなく安土城内でも何度か攫われかけた。
そういう経緯もあり、以前から一人で歩かないようにと言われていた。
さっきのドッキリは光秀さんなりのちょっとしたお仕置きだったんだろう。