第16章 輝く世界(慶次)
慶次「おい、なんで目を閉じるんだよ」
「目が疲れちゃって。慶次ってお洒落な着物を着てるんだね」
慶次が開きっぱなしだった襖を閉じて私を抱き上げた。
いつもお話しをしている部屋ではなく、その隣の部屋。
慶次がお城に泊まる時に使う寝室だ。
「え?ここ寝所だよね、なんで?」
敷かれた布団の上に降ろされて、体を縮めて座った。
慶次は私から離れて、ガタガタと何かを移動させている。
慶次「数か月ぶりに目を開けたんだ。日の光を急に浴びたら目がやられるかもしれないだろうが。
よし、障子は衝立で塞いだからだいぶ暗くなった。もういっぺん目を開けてみろよ」
本当に目が疲れたわけじゃなくて、ただの照れ隠しだったとは言い出せなかった。
(でも慶次の言うことも一理あるよね)
突然目に光を入れるのは良くないかもしれない。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、薄暗い部屋の中でボンヤリと自分の手が見えた。
手の表裏を見て、次に自分の着物、足袋を見る。
「見える…。ちゃんと見えるよ、慶次っ」
目が開かなくなってもいいと、見えなくてもいいと後ろを向いていたのが嘘みたいに嬉しかった。
慶次「気分はどうだ?」
「大丈夫みたい。赤い色や畳を見ても、取り乱さなかったし」
見たら狂うかもしれないと恐れていた赤は美しい柄が入った着物で、視界の隅に畳が見えていても何ともなかった。
慶次「油断するなよ。何かあったらすぐ言え」
「うん、わかった」
慶次「返事は人の顔を見てするんだな」
俯いていた顎に手がかかり、上向きにされた。
目が合ったのは猫目が印象的な華やかな人だった。
「?慶次……なん、だよね?」
威勢がいい話し方に、笑い方も豪快で、私を抱っこしてもよろめかない力持ちで、大きな身体の持ち主。
その情報を合わせて、クマみたいな人だと思っていた。