第16章 輝く世界(慶次)
慶次「そんなに俺に会いたいのか?」
「私は似生に会いたいの!」
慶次「そうか?似生は口実で俺に会いたいんじゃないのか?」
「慶次こそっ、似生のことは口実で、私に遊びに来て欲しいだけなんじゃないの?
ほんと慶次ってひねくれた言い方するよね」
慶次「そんわけないだろう。ん?」
慶次が呆れたように言いかけて、ふと黙った。
賑やかな慶次が黙ると、何かあったのではないかと不安になった。見えないからこそ感じる不安に小首を傾げた。
「慶次…?」
慶次「里美、髪の毛に羽虫がついてる」
「え?!嘘ッ、早く取って!わっ!?」
たたらを踏んだ足が敷居に引っかかり、つんのめった私は慶次の方に勢いよく倒れ込んだ。
慶次「おっと」
受け止めてくれた手が微妙なところに触れた。
「む、胸っ、触った!!!」
(い、今、ムニュッっていった!ムニュッって!!!)
慶次「はっ!?んなこと気にしてる場合じゃなかっただろ」
胸を触られた衝撃で、閉じっぱなしだった目が意思とは関係なく開いた。
「あっ!」
目に飛び込んできた赤にヒュッと息が止まった。
狂い叫ぶかと恐怖していた瞬間は、胸に触られた驚愕でそれどころではなかった。
(あれ…平気…?)
赤い色の恐怖よりも…胸に触られた方が大事件だと思っている自分が居る。
視界にはお洒落な柄が入った赤い着物が映っていて、血の赤じゃないと冷静に判断できた。
「綺麗な着物…が…み、える……?」
慶次「は?舞、お前、目が開いてる…?」
目が開いている私に気が付いて慶次も驚いている。
紫色の帯に太めの帯紐が結ばれている。身体に巻いているさらしまで全部見えた。
すりガラスのようにぼやけていた視界が鮮明に物を映している。
(なんで?お医者様は治らないって言っていたのに)
神経毒だから視神経をやられ、回復は見込めず悪くなるだけだと言われていた。
光を感じられていても、ゆくゆくは見えなくなるだろうって……。
慶次「舞?」
「っ」
慶次の顔を見たいと思ったことは何度もあったのに、いざとなると勇気が持てなくて目を閉じた。