第16章 輝く世界(慶次)
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違う顔を見せてからというもの、慶次は二つの顔をコロコロと変えて私を翻弄し、私もまたそれを楽しむようになった。
日を追っていくうちに私自身に変化が現れ、積極的に外に出たがるようになり、慶次以外の人とも少しずつ話ができるようになった。
女中さん達はちょっとしたお願いをしただけで感激して、大げさな人は感極まって涙してくれた。
その反応に、憐れみだけでなく心配もしてくれていたんだとわかった。
後ろばかり見ていたら、心から心配してくれている人に気付かなかっただろう。
憐みの気持ちを持たれるのがみじめで、そんな目で見られたくなくて距離を取った。
その行動が女中さん達の心を傷つけるなんて、殻に閉じこもっていた私は気づいていなかった。
光秀さんが女中さん達の身元をしっかり調べてくれたって言っていた。
信長様が信じて頼れって言っていた。
安土の武将を信じていた割に、その言葉を信じなかった矛盾。
今なら『ごめんなさい』『ありがとう』という言葉がするっと出てくるだろう。
信長様や他の皆が帰ってきたら、自分がとった態度を謝りたい。
「どうしてあんなに嫌な女になっていたのか不思議なんだ。
慶次が言ってくれた通り、ちょっとずつ以前の私が戻ってきてる気がする」
慶次「それはそれで残念だけどな。ツンツンした態度でお館様に嚙みついているのは見ていて楽しかったぜ?」
「言わないで…」
慶次が素に戻っている時間が多くなった。
皆の前では傾奇者を演じているそうで、使い分けているだけで誰が迷惑をこうむるわけでもないんだから別にいいと思う。
どっちの慶次も好きだけど、どちらかというと素の慶次が好きだ。
ひねくれた物言いや悪戯をしかけられるのは癪だけど、気楽に話せるし、楽しい。
「信長様に何か言うのは命が惜しいので、もうやめておきます」
慶次「命が惜しいってことは、ちったぁ前を向いてるってことだな。
良いんじゃないか?」
「慶次のおかげだよ」