第16章 輝く世界(慶次)
「……ふ、ぅ。わけわかんない。何よ…慶次なんか……」
慶次「あーあ、ついに泣かせちまったか。こりゃあ、明日からお姫さんに門前払いくらうかもな」
おどけた口調はいつもの慶次だ。
別人みたいだった慶次と、どちらが本当なのかわからないけど、この際どっちでも良い。
根本的なところは良い人だって感じるから。
「ぐす、そんなことしないよ。さっき振り回してやるって言ったじゃない」
しゃくりあげながら訴えると、頭を撫でてくれていた手が止まった。
慶次「はっ、上等だ。そう来なくちゃな、舞」
「!」
(名前……初めて呼んでくれた)
慶次が私を認めてくれたような気がして、胸の中にぱっと花が咲いたようだった。
(嬉しい…)
「ありがとう、慶次。ありがとう…」
こぼす涙は悲しい涙ではなく、嬉しい涙だ。
びっくりするようなやり方で私に前を向かせてくれた。
慶次「早く泣き止めよ。俺の着物がびしょ濡れだ」
「えっ!?ご、ごめん」
そんなに大泣きしたつもりはなくて、変だなと思いながら顔を離した。
慶次「ふっ…、自分が流した涙の量もわかんないのか?
嘘だ、思う存分泣いていいぞ」
後頭部に手が回り硬い胸に押し付けられた。
鼻がゴンとぶつかって痛みで涙も引っ込んだ。
「いたた…。今ので涙引っ込んじゃったよ。ふふっ、慶次って結構意地悪なんだね?」
慶次「あー、光秀ほどじゃないけどな?」
けろっと返す声には笑いが混じっていて、私もつられて微笑んだ。
(慶次を近く感じる…。慶次って…どんな顔をしているんだろう)
見てみたいなと思った。