第16章 輝く世界(慶次)
慶次「ひねくれてなんかないだろ。毒を盛られて人間不信になる…真っ当な反応だ。
それに俺みたいな男に騙されてるあたりも素直な人間だからだろう」
(……騙されてるって、どういうこと?)
得体の知れない不安が雲のように湧き上がった。
たったさっきまで安心しきって身体を預けていた相手に不信感が募った。
「慶次…?」
慶次「俺は明るくとも、真っすぐでもない人間だ。
お姫さんが隠そうとしても隠せていない素直さが、愚かだとも羨ましいとも思える」
声のトーンがいつもと違う。
沢山前向きな言葉をくれた口から『愚か』という言葉が出て、胸を荒く抉った。
慶次「目は口ほどに物を言うというが、お姫さんは目を閉じていても感情が手に取るようにわかる。
今も俺に裏切られた気持ちでいっぱいになってるだろ」
いつもの威勢の良い溌溂とした声じゃなく、低く冷めた声。
(慶次じゃないみたい、怖いっ)
「っ」
慶次の膝の上から逃げようとして、肩に回った腕にがっちりと捕まえられた。
「やっ、離してっ!」
慶次「お姫さん、今とった行動を省みてみろ。全部が素直じゃないか?
信用していた男が実は得体の知れない男で、怖いと思って逃げようとした…」
今はそんなこと考える余裕はない。
「離してっ」
声を荒げて抵抗しても、肩と腰に回った腕からは逃げられない。
鍛え抜かれた身体で容易く動きを封じられ、恐怖心で身体が震えた。
慶次「怒りも隠し切れない。俺からしてみればお姫さんは全然ひねくれてない。
自分を苛めてどうすんだよ。お前はどう頑張っても素直な人間で、一時的に病んでるだけだ。
戻ろうとしなくても、いつかお姫さんは元の自分に戻れる。
たとえ以前の自分を思い出せなくてもな」
混乱する頭で言われたことを考える。
いきなり慶次の違う面を見せられて不信感が爆発したけど…
口調も素っ気なくて淡々としているけど…
くれた言葉を素直に受け止めれば、慶次が私を認め、励ましてくれているのだと感じた。
そう理解した途端、目頭が熱くなった。