第16章 輝く世界(慶次)
久しぶりに感じる人のぬくもりに、ふっと身体の力が抜け、安心感からポロポロと弱音がこぼれ出た。
「心の準備が整うのを待っていたら、何年もかかるか…その日が永遠にこないかもしれない。
今は目を開ける力がなくなっても良いかなって思ってる」
たしなめられるのを覚悟でそう言うと、
慶次「今は、だろう?先のことなんか誰にもわからねぇもんだ。
何かを見たいと思えば、目を開けたくなるかもしれないしな」
その時に目が開かなければ訓練すれば良いと、軽い口調で言ってくれた。
弱気になるなとか、やってみろって言われるかと覚悟していたけど、慶次はそうじゃなかった。
慶次「お姫さんは酷い目にあったんだ。焦らなくても、頑張らなくても良い。
そのかわり、毎日楽しく過ごす方法を考えた方がいいぜ?」
「楽しく?目が見えないのに?」
厚い胸に預けていた頭を起こし、慶次の方に顔を向けた。
慶次「見えなくても楽しいと感じることはあっただろう?
まだ探せばいっぱいあるから、これからもお姫さんを振り回してやるよ」
「慶次はどうして私に良くしてくれるの?」
見えないけど、慶次が笑った気がした。
慶次「信長様に盾突いているあんたも小気味良くて良かったが、せっかく素直な性格してんだ……もったいないだろうが。
人間、素直が一番だ」
『もったいない』
それだけの理由でここまで親切にしてくれるものだろうか。
いまいち腑に落ちない。
「素直なんかじゃないよ。毒を盛られて以来人間不信になって、後ろ向きでひねくれた考えしかできなくなったの。
慶次みたいに明るくて真っすぐな人になれたらいいのに…。
前は素直だったって言われても以前の私がどうだったか思い出せないの。本当は今の自分が大嫌い」
ふと空気が重たくなった。