第16章 輝く世界(慶次)
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信長様達が城を出かけて半月が経った。
秀吉さんの働きで城は日常を維持し、戦国時代であることを忘れそうなくらい穏やかな日が続いていた。
眼科医による定期診察が行われ、医師と入れ替わりで慶次が部屋に入ってきた。
慶次「お姫さんの主治医が言ってたんだが、目が見えなくても時々目を開けた方が良いんだってな」
「うん、診察の時にも言われた」
目の周りの筋力がなくなるから、らしい。
視力をなくしたなら目の周りの筋力が低下したところで支障はないと、聞き流した。
それにもう見たくない。
血を思い出させる赤い色を。
目を開けて赤い色を見てしまったら……。
ドクンドクンと心臓が嫌な音を奏でる。
赤色だけじゃない。もし『あの時』を思い出す何か、例えば畳やお椀、お吸い物……。
それらを見てしまったら発狂するだろう。
思い出しただけで胸が苦しくなり、冷や汗がジワリと滲み出た。
「狂いそうなの。もし何か……はぁ、あの時のことを思い出すものを見たら……はぁっ」
耳の奥でドクドク脈打ち、頭痛がした。
肺が酸素を取り込むのをやめ、手足がしびれてきた。
慶次「おい、お姫さん、大丈夫か!?」
「はっ……人を遠ざけて余計手間を増やしてるってわかってるし、光を感じられるなんて真っ暗より断然恵まれているってわかってる。
でも、できないの。怖くて怖くて目を開けたくないっ」
ブルブル震える身体を不意に抱き締められた。
慶次「誰も無理してやれって言ってない。
お姫さんの仕度が整ってからで良いんじゃないのか」
過呼吸をおこしている私を落ち着かせるために慶次は私を横抱きに抱えなおした。
なだめるように頭をゆっくりと撫でてくれて、ハァハァと肩を上下させている私とは対照的に、慶次の手は静かで力強かった。