第16章 輝く世界(慶次)
慶次「鳴くのは駄目だろう、似生。ったく、しょうがないやつ」
「飼ってるの?」
慶次「まあな。餌をあげてみるか?ちょうどこいつの昼餉時だ」
「あげたい。初対面の私があげても食べてくれるかな」
慶次「んなこと心配しなくても良い。こいつは食い意地張ってるからな」
手を取られ、何か固いものを渡された。
(?)
野菜スティックの形状で、匂いを嗅ぐと人参の香りがした。
「ふふ、じ、せい?だっけ…。人参だよ」
気配がする方に差し出すと、慶次が吹き出した。
慶次「あいにく今は腹が減ってない。似生はお前の後ろに居る」
「え!?ごめん、慶次と似生、間違えちゃった」
言われてみれば背後にプスプスと小さな鼻息が聞こえた。
慶次「気配を探れよ。人間と動物なら明らかに気配が違う。
それに慣れたら人間を区別できるようになろうな」
「うん……」
慶次は目が見えない私を導いてくれている。
誰も信用できないからと壁を作っているのに、そんなの無いかのように隣に居て、見守ってくれる。
(私に良くしたところで何も得るものはないのに、どうしてなんだろう)
素直じゃない私がドロリと顔を出して、『ありがとう』という言葉を内に閉じ込めた。
「……」
似生が人参に食いついた。
そこから伝わってくる振動から、凄い勢いで食べてくれているのが伝わってくる。
「可愛い」
動物は嘘偽りのない存在だと自分で判断できる唯一の相手だ。
そう捉えることしかできない自分は寂しい人間で、どうしようもなかった…。