第16章 輝く世界(慶次)
慶次「ははっ、さっきの慌てっぷりは良かったぜ?遠目でもあんたが狼狽えるのがわかった」
「人が困っているのを見て笑わないでくださいっ」
慶次「まあ、そんな怒るなよ」
傘を拭いてくれる気配がしてホッと息を吐いた。
拭き終わると慶次様は私の前にしゃがみ込んだ。
慶次「さっきみたいに砕けた話し方しろよ。呼び方も慶次で良い」
「砕けた話し方をしましたか?」
慶次「『え!?何?何が落ちてきたの?まさか毛虫?』。なーんて言ってただろうが」
慶次様は私の口調をそっくり真似て揶揄った。
「慶次様は」
慶次「慶次」
どうしても呼び捨てで呼んで欲しいみたいだ。
自分だって私のことを『お姫さん』としか呼ばないくせに。
「慶次はモノマネが上手だね」
慶次「そうか?なんだったらもっと披露してやるが」
「い、いいよ。鍛錬中なのに気にかけてくれてありがとう」
私の様子がおかしいから、わざわざ見に来てくれたんだろう。
慶次「いいってことよ。俺達ももう直ぐ休憩するから、それまで遊んでろよ。
また何か降って来たら大声で叫べ」
「はい。あ……うん、わかった」
(面倒見が良い人なんだな、慶次って)
慶次「ん?お前の肩についてるのって、毛虫じゃないか?」
「え!?うそうそうそ!!毛虫じゃないかって言われても見えないよ。
どっちの肩?取って!今すぐ、早くっ!」
飛び上がって左、右と慶次に肩を見せる。
どっちの肩についているかもわからないし、泣きそうになった。
慶次「ははっ、ほんと苦手みたいだな。悪いが、虫がついてるって言ったのは嘘だ」
「ほんっっとに嫌いなんだからやめてよ!!笑えない!!」
慶次「悪い、悪い。素直なお姫さんが楽しくてな」
「楽しくないっ!!」
慶次「信長様が言っていた通り、素直だな、あんた」
「え…?」
(こんなにひねくれものの私が?)
首を傾げる私を置いて、慶次はまた鍛錬に戻っていった。