第16章 輝く世界(慶次)
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兵「一、二、三、四!!」
慶次「まぁだ始まったばっかだぜ?もう少し力抜けよ」
鍛錬場に着くと、慶次様は木陰に座らせてくれた。
この間まで山滴る緑の香りがしていたと思ったのに、部屋に閉じこもっているうちに秋が訪れていた。
(蝉もいない。そうだよね、もう10月だもん…)
ほんの少し好奇心が湧いて、手で敷物を辿っていくと草があたった。
短い草はチクチクと手にあたり、くすぐったい。
(草にさわるの久しぶり…。ん?)
豆のようなものに触れて、そろりと摘まみ上げた。
なんだろうと触れていると一部がとれてしまった。
「あ、もしかしてドングリ?」
正体がわかり、安心して地面を撫でると沢山落ちているみたいだ。
(秋だなぁ)
見えなくてもちゃんと秋を感じられた。
深呼吸して秋の空気を吸いこんでいると、頭の上になにかが落ちてきた。
ボト
「!?」
出掛ける直前に市女笠(いちめがさ)のようなものを被せられたので、直接ではかったけど何かが落ちてきたのは間違いない。
(何が落ちてきたのな。もしかして毛虫とか…?)
毛虫だったらと思うと、迂闊に触れて確かめられなかった。
振り落とそうと顔を俯き加減にして横に振ってみたけど、何かが落ちた気配はしなかった。
(どうしよう。ドングリだったらすぐ落ちるはずだし…)
傘を固定している顎紐の結び目に手をかけ、待てよと考え直す。
「傘を取っている間にまた落ちてくるかもしれないよね」
頭に直に毛虫が落ちてきたら…。想像して身震いした。
途方に暮れていると、びっくりするくらい近くで声がした。
慶次「どうした、お姫さん?」
「慶次様!なんかボトって…、落ちてきたんです」
かぶっている傘を見てもらおうと俯くと、慶次様が唸った。
慶次「あー……こりゃあいけねえな…」
「え!?何?何が落ちてきたの?まさか毛虫?」
慶次「鳥のフンだ」
身体から力が抜けた。
「なんだぁ…、良かった。毛虫じゃなくて」
慶次「お姫さんは毛虫が嫌いなのか?」
「はい、凄く…」
黒くて足が速いアイツの次に苦手だ。