第16章 輝く世界(慶次)
「?」
(そうだった。信長様の他に、もう一人居たんだっけ)
すっかり忘れてツンケンした態度を取ってしまった。
まぁ、誰が居たところで態度を変えることはないけど。
?「お館様に向かってそんな口をきく女、初めてだぜ」
威勢のある。とでも言えば良いのか…張りのある声がした。
「申し訳ありませんがどちらさまでしょうか。
記憶にある限り初めて聞く声ですが…」
?「俺は前田慶次。安土を留守にしていたからな、今日が初対面だ」
「はじめまして、舞と申します」
(前田慶次って確か傾奇者で有名な人だよね)
戦国時代を知ろうとトラベルガイドを熟読した際、そう書いてあった気がした。
慶次「堺に居た頃は『安土の姫はえらい別嬪で心優しい女だ』って専らの噂だったぜ?」
「ご期待に沿えず申し訳ありません」
噂の独り歩きに辟易した。
現代ではSNSで間違った情報が流れることも多かったけど、戦国時代の口伝ての噂はそれ以上に間違って伝わる。元ネタの原型がなくなるほどに。
慶次「いいや?あんたみたいな女の方が面白い」
(面白い?どこが?)
視力を奪われたのがきっかけで思考も何もひねくれて、味もそっけもない態度を取っている私のどこが面白いんだろう。
(おかしな人)
どう思われようが勝手だけど。
「それで信長様はなぜ慶次様をお連れになったのですか?」
信長「家康の領地で小競り合いが起きている。
秀吉と慶次を城に残し、あとの者は出かけてくる」
(つまりは私を見守る要員が減るから慶次様にも頼んだってことね)
「私のことは心配なさらないでください。ご武運をお祈り申し上げます」
深々と頭を下げて信長様達を送り出した。