第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
(これは毒矢だわっ)
毒を受けた際の知識を呼び起こし、手ぬぐいを口に咥えた。刺さっている矢を掴み、一気に引き抜いた。
矢を抜いた場所から血が噴き出し、ぐっとくぐもった呻きが漏れた。
「っ……、視認できるのは3名。弓矢を持っています!」
気を失いそうな痛みと衝撃に耐え、着替えにはいったばかりであろう謙信様に、冷静に状況を知らせる。
湯殿の出入り口はひとつ。廊下に出れば矢面に立ってしまう。
(このまま湯殿に留まってもらうべき?でも敵がもっと隠れていたら湯殿は退路がないわ)
躊躇している間に、敵は高い木から飛び降りて一旦姿を消すと、すぐに城壁を乗り越えてきた。
日頃謙信様に襲撃されていたおかげで奇襲にも冷静に向き合えた。
迎え撃つ覚悟は…今の方がとんでもなく重たいけれど…。
「…今のうちに手当てを」
手拭の端を口で咥えて固定し、素早く傷の上部を縛った。
番をしていた人の飲み水が置かれたままだったのでそれを傷にかけ、残りは飲み干した。
(迎え撃ち、その後もなんとしても意識を保たなくては)
気を失えば手当のために着物を脱がされてしまう。
(兄上が来るまで三日)
今、この時を乗り越えたなら、三日なんてあっという間に過ぎるだろう。
矢傷ではなく胸がジリ…と焦げつくように痛んだ。胸の痛みの理由を考える暇などなかった。
敵は走りながら狙いを定めて矢を放ってくる。それを払い落すので精いっぱいだ。
忍び姿だが軒猿とは違う着物だ。
(どこの忍びかしら?)
「っ」
矢に気をとられていると、刀を抜いた忍びが勢いよく斬りかかってきた。
つばぜり合いになれば、複数相手では不利になる。
刀の勢いを受け流して相手をするしかない。
(すぐに助けは来るはず)
倒せなくとも敵をこの場に留めておけば………