第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
(くつろいでくださっているみたい…良かった)
謙信「部屋の花を生けているのは尚文か?」
「はい」
謙信「お前が来てから花の飾り方が変わったと思っていた」
(目を向けてもらっていたんだ)
「ありがとうございます。今日も飾っておきましたので、部屋に戻ったらお楽しみください
謙信「尚文は花が好きなのか?」
う、と言葉に詰まる。
(好きな物は好きと言え…だよね)
山で言われた事を思い出し、正直に答えた。
「恥ずかしながら、花は好きです。
野で咲いている時と生けた時とで、違った表情を見せてくれますし…時期にしか姿を見られない儚さも好きです」
謙信「そうか…、花や動物を愛でる心優しい男が刀を持たなくてはいけないとは、乱世は無情なものだな」
「ふっ、もったいないお言葉です」
(心優しいだなんて……)
兄上に言われると気持ち悪いのに、謙信様に言われると飛び上がるほど嬉しいのは何故だろう。
謙信「そろそろあがる。尚文、火の番は交代し、そのまま庭に回れ」
「はい。あと、兄上から文が届きました。そのことをお庭でお話ししても構いませんか?」
謙信「わかった」
よいしょ、と腰をあげると、湯殿から湯が流れる音がした。
なんとかお役目を果たせたと流れる汗を拭いていると、しゅっという音がして腕に鋭い痛みを感じた。
汗を拭っていた左腕に矢が刺さり、筋肉がぎゅっと締まった。
汗を拭っていなければ…頭に刺さり即死だったかもしれない。
「っ!?」
突き刺さった矢の角度を見て、矢が放たれた方角を探す。
(木の上に2人、いや3人…?)
そう言えば先輩が言っていた。湯殿で攻撃を受けると反撃にかかるまで時間を要することから、狙われやすいと。
(戦から帰ってきたばかりの謙信様が湯浴みすると予想して襲撃しにきたのかしら…)
それにしても人数が少ないのが気になる。真正面からぶつかるつもりはなさそうだ。
(少人数での奇襲……目的はなんだろうか)
「っ、敵襲!お館様を安全な所へっ!」
引きつる喉を振り絞って声をあげると、湯殿から付き人が慌ただしく返事をした。城の中に響くように敵襲!という声が聞こえた。
刀を抜き、追撃の矢を払い落とした。矢傷が焼けるように痛み、血の流れに沿ってゾロリと嫌な感覚がした。