第15章 secret word(政宗)
「あ~……、そろそろ宴に行く準備をしなくちゃいけないんだった。またあとでね」
わざとらしく棒読みして、出入り口の紐暖簾をくぐったところで手首を掴まれた。
振り返らなくても大きな手の感触が政宗のものだってわかる。
政宗「舞、『う』だ」
掠れた声を直接耳に流しこまれ、背後から伸びてきた手に顔の向きを変えられた。
「う?……ん!」
調教されたように口が『う』になった途端、唇をかすめ取られた。
政宗「広間で待ってる。とびきり可愛くなってこい」
「とびきりなんて…そんなに変わらないよ?」
政宗「そのままでもお前は可愛い。それが着飾るんだから『とびきり』だろ?」
「そんなに褒めても何も出てこない…よ?」
政宗「俺がうそを言ってると思ってんのか?本気で言ってる」
場所も忘れて青い左目に魅入られていると……聞き慣れた声が咎めてきた。
家康「……ちょっと政宗さん、廊下のど真ん中で桃色の空気出さないでください。
女中が気を利かせて廊下を迂回していましたよ」
「え!?うそ…!?」
政宗の後ろから晴れ着姿の家康が現れて、呆れ混じりのため息をはいた。
家康「舞も早く仕度しなよ。
そのままの格好で行ったら秀吉さんにどやされて宴どころじゃなくなる」
身体を見下ろすと普段の着物に前掛け姿だ。
間違いなくお説教3時間コースだ。
「わかった!ふたりとも、また後でね!」
政宗「楽しみにしてる」
「うん!」
(とびきり可愛くなれってことだよね)
さっきのセリフを思い出して顔を赤くしていると、政宗が追い打ちをかけてきた。
政宗「夜の『え』も楽しみにしているからな。忘れるなよ」
(家康の前なのにっ)
「じ、じゃあね!」
家康に顔をみられないよう光速で背をむけて廊下を歩き出す。
家康「『え』ってなんですか?」
政宗「俺と舞の秘密だから教えられないな」
家康「へぇ…別に興味ないですけど。じゃあ俺も行く所があるんで、これで失礼します」
政宗「じゃあな」
『え』の秘密がバレなくて良かったと、赤い頬のまま自室に向かった。